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ショートストーリー・ショートソングVol.1 <わからない>

<わからない>

違和感には気づいていた。

サークルではその印象しかないくらいに振りまいている笑顔が、いつのまにか消えていることも。
「きっと似合うから」といって僕がすすめてはかせたスカートの下の落ち着かなさげな脚の動きも。

ただ、どうすればいいのかわからなかった。
その頃の僕は、せっかく過ごせることになった二人の時間を少しでも長引かせることにやっきになっていた。しかしそれは決して、ユウの気持ちを考えての行動ではなかったということをその時はわからなかった。

こんなはずじゃないのに。
そう思えば思うほど、笑顔は固くなり、会話は弾まなくなる。

せっかくふたりきりになれたのに、独り占めしようと思っていたユウの笑顔は目の前になく、サークルの時とはまったくちがってしまった自分の姿におびえる顔がさらに僕の気持ちを落ち込ませた。

それなりにいろいろな観光地やデートスポットに行ったりしてようやく半年が経とうとしていた頃、海を見たがったユウの希望で、僕らは親の車を借りてドライブに出かけた。

「海に行くことがあったら、ふたりで写真を撮りたいね」

付き合い始めの頃のユウのセリフを高速に乗ってから思い出し、デジカメを忘れてしまったことをひどく後悔した。
使い捨てカメラを買おうか?と途中のコンビニでユウに持ちかけたけれど、ケータイで撮れるからいいんじゃない、という答えが返ってきた。僕は、それじゃあふたりで撮れないよ、という言葉を飲み込んでキーをドアーに差し込んだ。

長時間のドライブの末にどうにか海に着いたけれど、初秋を迎えた海水浴場に人はまばらだった。
僕らは靴をぬいで手をつなぎ、冷たい波に足を浸しながら無言で浜辺を歩いた。

そうだ、写真撮ろう、といってつないでいた手を離し、少し離れたところからケータイのカメラで彼女を撮った。
シャッターボタンを押した瞬間に強い風が吹き、長い髪が彼女の顔を覆ってしまった。それなのに、僕はもう一度撮らせてほしいという代わりに、芸術的に撮れたよなんていいながら、作り笑いでケータイをジーンズのポケットにしまった。

帰り道、助手席で寝息をたてている彼女の表情をどうしてだか見れなかった。その代わり、窓の外からの光のせいで白い脚に拭き残された砂粒だけがやけにはっきり見えて、痛々しく思えた。

都内に戻ってきた頃、起きだした彼女がお腹が空いたといったので、例によってお金のない僕たちは、ファミレスで夕食をとることにした。はじめは今日のデートの話をしていた僕らだったが、あまり盛り上がらないために唯一の共通の話題であるサークルの話になった。頭のどこかでは、こんな話ならサークルの時にでも話せるのに、とは思っていたが、ユウもおそらく同じだろう。しかし、ふたりともそのことを笑って言い出せる雰囲気ではなかった。

食後のコーヒーもあまり手を付けられることなく冷えていくばかりだったが、間が悪くなると決まって二人ともカップに手をのばすためにそれなりに量は減っていた。おもむろに僕らの席にきたウェイトレスが、コーヒーのお代わりはいかがですか?と聞いてきたのだが、僕はいったいこの先どうしたらいいのだろうと考えていたのでリアクションが遅れた。しかし、そのことなんてどうでもいいくらい、ユウは背中をソファにくっつけたままうなだれて何も言わなかった。

気まずい静寂が三人の間に流れ始めて、ウェイトレスが後ずさりして戻ろうとした時に唐突にユウが言った。

「もういいや……」

振り返りかけたウェイトレスは、何か見てはいけないものをみたかの用に「失礼しました……」と小声でいってお辞儀をしてそそくさと去っていった。ぼくはうろたえるウェイトレスの姿を視界の端に入れながらも、ユウに気づかれないように顔をテーブルに近づけてユウの表情からなんとか気持ちを読み取ろうとムダな努力をした。お代わりを頼みそびれてカップの底に残ったコーヒーを口にすると、苦味が胸に広がった。

車でユウを送っていく途中、半年間ユウと過ごした色々な光景が勝手に思い浮かんできてしまい、視界をまぶしくさせた。ユウの家までの道は身体に染み付いたかのようで、車はあと少しで確実にそこへとたどり着くことだろう。同時に僕らは、ある地点へとたどり着きもう二度と引き返すことはないだろう。

「ありがとう……」

そういって降りていったユウの後姿を見送りながら、やっぱりかわいいな、と思い少し笑顔が出たが、いつもとちがい玄関に入るときにユウは振り返らなかった。その決定的な事実を受け入れたくない気持ちをごまかすように、傍らのケータイを手に取った。

ふと思い出して、海で撮った写真を見てみようとカメラのフォルダを開いた。最新の撮影履歴にはユウの上半身の写真があった。風に吹き上げられた黒髪で隠れて、その表情は泣いているようにも、笑っているようにも見えた。

結局、なにもわかってあげられなかったな……。そう思いながらゆっくり、ゆっくりケータイを閉じた。

お代わりのコーヒーのこと?僕のこと?「もういいや」って顔も上げずに (岡本雅哉)


……このblogを愛読してくださる全ての方に。感謝を込めて。


参考エントリー:[ファミレス]短歌 紹介されました(かとちえの短歌ストーリー)


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コメント

>風に吹き上げられた黒髪で隠れて、その表情は泣いているようにも、笑っているようにも見えた。

あ。伏線うまい!と思いました。

そして僕の前に付き合っていた彼女もユウちゃんだったからかな。
胸にぐっときました。

絵が浮かぶ。。

投稿: タツロー! | 2008年8月23日 (土) 17時14分

いやあ、岡本さん!
ホントは僕が岡本さんの短歌にストーリーをつけるはず
だったのに・・

でも、つけなくて良かったか・・・
本気出しましたね(笑)

今度の部屋では僕の歌を採用して欲しいなあ
と誰に向かってでもなくここでアピールしておきます。
(何か今まで師匠にストーリーをつけられたの全員女性のような気するんですが・・
男子頑張りましょう。

投稿: 伊藤なつと | 2008年8月24日 (日) 19時20分

タツロー!さん、こんばんは。

絵が浮かぶ……自分も具体的な情景を思い浮かべて書いたので、そのせいでしょうかね?実は、ほとんどが自分の実体験のコラージュなんです!
髪で表情が隠れた写真も、実際撮ったことがあるんですよ……そのときの二人の関係はお話とは違いますけどね。

ユウちゃんって子と付き合ってたんですか……ご自身を重ねて読んでもらえて光栄です。

自分的には“ユウ”っていうのはあるバレーボール選手のコートネームです。引退が残念だったので……

伊藤さんも、こんばんは!

この歌には思い入れがあったので、思い切って書いてしまいました。というか、ろくもじさんからもこっそりリクエストいただいておりまして(笑)実はいとなつコネクションのおかげです。

<何か今まで師匠にストーリーをつけられたの全員女性のような気するんですが

って、鋭い!次回は女の子目線の歌を詠んでみましょうか!?それとも男子力重視でいきます!?

投稿: 岡本雅哉 | 2008年8月25日 (月) 00時30分

おじゃまします。
どうもありがとうございました!私のために!!(←勘違い)

いろいろ言葉を飲み込む主人公が切ないです。
それは言ってもいいんじゃないの?とか近所のおばさま目線で読んでおりました(笑)でも女子もそんなところあるよなー、とも思いながら。

文章のところどころで2人が言いたかったことがたくさん詰まってるのがわかるから余計に切ないです。

というかウエイトレスさんかわいそう(笑)
うっかりKYですね。

女子目線短歌も期待してます!

投稿: ろくもじ | 2008年8月26日 (火) 10時26分

ろくもじさん、こんばんは!

がんばりましたよ、あなただけのために!!
(その他の読者さん、ちょっとお休みね)

<いろいろ言葉を飲み込む主人公が切ない
<です。
<でも女子もそんなところあるよなー、
<とも思いながら。

って、まさにろくもじさんの事ですね……がんばれ女子大生!!

女子目線短歌、今詠んでます。
難しいです☆

投稿: 岡本雅哉 | 2008年8月27日 (水) 01時08分

せつないですねー、読んでて男子に共感してしまい胸が苦しくなりました!

こんな気持ちは、砂浜の砂粒にもコーヒーの苦味にも、ファミレスの硬いソファにもリンクしていって余計さみしさが広がっちゃいますね。

投稿: 安藤えいみ | 2008年8月28日 (木) 23時02分

あ、確かにかとちえ師匠の取り上げる短歌は、やっぱりかとちえ短歌に通じるようなツンデレ女子短歌ですよねwで、全部女子作品なのかあ!

よくばると、師匠が書く男子目線のショートストーリーも読んでみたいですね♪

投稿: 安藤えいみ | 2008年8月28日 (木) 23時06分

安藤さん、ありがとうございます!

さみしさを、そこまで広げてくれるなんて光栄です。気持ちって、すれちがうときはとことんすれちがいますからね……(痛)
でも、女子目線でみると、単にウザいとかで終わるかも(笑)

[橋]短歌、男子目線でいくか、女子目線でいくか迷いますね……かとちえさんは投稿者からのメッセージはよく読まれているみたいなので、“今まで女子しか採り上げられていませんが……”とか指摘してみようかな?

でも、ガンコっぽい気もするしなぁー!

投稿: 岡本雅哉 | 2008年8月29日 (金) 10時11分

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